小林人


手と足でミシンを巧みに操り、文字や絵を生地に刺繍する日本独自の技法「手振り刺繍」。その文字や絵には、職人の個性があり、どこか温かみがある。今では、機械ミシンの普及とともに担い手が減少し、全国的にも貴重な存在となっている。この技術を使い、40年以上市内の小学生の赤白帽に名前を刺繍している人がいる。中央商店街にある帽子店「のうらや」の仮屋昭子さん、75歳。
「一つ一つ手作業なので、コンピューターのように同じものを作ることはできません。そのため、一文字ずつ気持ちを込めて大切に刺繍しています」。
手振りミシンは、足元のペダルを踏む強さで速さを調節し、右膝あたりについているレバーで振り幅を操作する。さらに、生地を指で押さえながら縦横斜めに動かし文字や絵を刺繍する。これを同時に行うのだから、まさに熟練した職人だけが成せる技だ。
「ちゃんとした文字を刺繍できるまで、3年はかかりました。40年やっていても、まだまだです。今でも、硬筆を習い、もっと上手に刺繍できるように勉強は欠かせません」。
店を手伝い、共に作業する娘の海老原妙子さんは「私も20年やっていますが、母の技術には、到底追いつけない」とその技術力の高さに憧れる。
「小学生が私の刺繍した文字の入っている帽子を被っていることに誇りを感じています。これからも、元気な限り続けていきます」。
もうすぐ入学式のシーズン。新しく小学校に通い始める新入児童のために、今日も、心を込めて刺繍する。(「広報こばやし」平成29年3月号掲載)